えびしんじょうのにっき

方向性不明のまま見切り発車。今は思ったことつらつら書いてます。後に整理予定。

13階段/高野和明

先日書いた感想文の最後でも触れましたが、私は江戸川乱歩さんの作品をかじった事があります。abshinjonikkey.hatenablog.com

その狂気染みた美しさというものに魅了され、すごく乱歩さんに興味を持ちました。
(乱歩さんのどの作品を読んだとかそういう話は、長くなるので末尾に記載しておきます)

「とにかく本を読もう!」と最近思い立ったわけですが、その際に何を読もうかと検索しておりまして、ふとこの作品が目に入りました。
面白いという評価に加えて、私の興味を引いたのが「江戸川乱歩賞受賞」の文字。
上記の賞があることは知っていましたが、実際に手に取った事がなかったので、「今しかない!」と考えて読む事にしました。

今回も例によって、注意書きを…!(検索から来られた方がいらっしゃると思うので、一応)
基本にわか+ミーハーなものでして、考察やら浅い所が多々ありますが、思ったことをつらつら書いていきます。
本の批評ではなく、ただの個人の感想なのであしからず!

13階段 (講談社文庫)

13階段 (講談社文庫)

■概要

推理小説が読みたい!」と思って本を探していたのですが、本作品は推理小説(ミステリー)というより、社会風刺や現代社会への問題提起を強く感じた作品でした。

ストーリーは2年前に人を殺め服役していた青年とベテラン刑務官が、10年前に起こった冤罪の可能性がある事件の真相を解くというものであるが、死刑制度を含めた刑の重みや刑務所の機能(服役者の更生)などがテーマとなっている。
13階段 - Wikipedia 概要から引用)

上記の説明にもあるように、死刑制度や刑務所の機能と政治、警察等の関係、ひいては少年法にまで考えさせられる所がありました。

かといってミステリー要素が無いわけではなく、後半にかけての畳み掛けるような謎明かしにはわくわくさせられます。
どちらの意味でもとても楽しめる作品になっていますので、個人的にはすごくお勧めしたいと思います。
まだ読んでいない方は是非!

■作品のテーマ

上記にある通り、本作品は「死刑制度を含めた刑の重みや刑務所の機能(服役者の更生)など」がテーマとなっています。
ある一方面から(主に主人公側)の描写だけではなく様々な形の加害者や被害者、並びにその周りを取り巻く環境、人、社会、等が事細かに描かれています。
正直に私は「結局自分が当事者にならないと深く考えられない」と思っていた所を、上手に突かれた感じがしてとても苦しい思いをしました。
明日、もしくは今すぐにでも「当事者」になりうる可能性を孕んでいる事は、生きている限り皆が平等であると思います。
その中で自分がどう考えるのかを、今すぐ答えが出せないとしても考えるべきだなと考え直すキッカケを頂きました。


ここからはネタバレを含んでいますので、以降の感想は読了後の閲覧をお勧め致します。


■主人公「三上純一」について

彼の印象は物語の序盤と終盤で全く違うものとなりました。
序盤は「正当防衛を行った加害者」、こちらには否が無いのに運が悪かったが為に「加害者」となってしまった、いわゆる「悲劇の人」という風な描写がされています。
出所後の家族や昔の恋人、近所の人々との関係や、南郷との出会い、遺族との関係を通じて、更生を辿ると思っていました。
私が思っていました、思っていただけでした。

しかし最後にわかる真実、「計画された加害者」であった事の告白が為され、大きな衝撃が走ります。
ですが、その内容も考えさせられます。唸ります。
「被害者」とは面識があり、しかもその「被害者」はかつての「加害者」である事が分かるのです。
しかし未成年であったため、少年法が効いてしまう事、もう一人の「加害者」が女性(当時の彼女)でありそれが「性的被害」である事も同時に告白されます。
「性的被害」を訴える事により、いわゆる「セカンドレイプ」を彼女が受けてしまう事を想定し、訴える事もできない。
しかし、「加害者」を許す事ができないために、純一は復讐を決意するわけです。
計画していた復讐はひょんなことから「正当防衛」という形になってしまいますが…。

彼の衝動や、彼が殺してしまった人の遺族への気持ちが痛く分かります。
(私が女性だから余計にそう思うのかな)
しかし、彼に殺された遺族の思いもきちんと描かれているため、彼と同じような憎悪を感じる事もできません。
彼に殺された遺族のみならず、彼の家族やかつての「被害者」であった元彼女の存在。
本当に本当に辛いです(笑)

ですが、まあ、最後に純一自身も言っていたように、「復讐は連鎖を生む」ものであります。
私刑を施してしまうと社会の秩序が保たれないため、本当はきちんと関係各所に任せておくのがベターでしょう。

でも少年法ってそれを阻害するモノなんじゃないかなあと思います。
結局泣き寝入りという形になっちゃいそうで…本当に辛い。
私は個人的に少年法の見直しをした方が良いという思想なことには変わりませんでした。
でも私刑はだめね、そうね。

■この作品を読んで得た私の考え

「主人公について」の項にも散々書きましたが(笑)
この作品を読む前は私も「報復型」の思想でした。結局自分が「当事者」になるとしても「加害者」になることは考えていなかったわけですね。
しかし「加害者」にも様々な事情があり、また「被害者」にも様々な考え方・捉え方がある。
う〜〜ん…やっぱり纏まりません(笑)

話は少しばかり逸れますが、この作品を読みながら、最近話題を蒸し返している「某少年」の事を思い浮かべて居ました。
もし私が彼に殺害されたお子さんの親であるとしたら、やはり彼は一生許す事はできないし、今現在の彼の行いも許す事ができません。
その気持ちは、この作品の中でも描かれていましたね。(宇津木さんの遺族によるお話)
ぜひあの作品を読むよりも、この作品を読んでほしいものです。

話を戻して。
やっぱりいくら考えても今すぐ答えは出せそうにありません。
ですが、様々な観点を与えてくれたこの作品に、私は感謝したいと思います。


***

せっかくお絵描き星人なので、頭の中で思い描いていた「純一」と「南郷」のイメージを図にしてみました。
f:id:ab_ebi_shinjo:20150730162246p:plain
南郷もっとゴリゴリかなと思ってたのですが、画力がおよばかなかった…
二人には小さくてもいいので、幸せが訪れて欲しいです。

***

感想はこれくらいにするとして、冒頭で触れた江戸川乱歩さんのお話をしていこうかなと。


私が読んだのは「江戸川乱歩傑作集」という作品です。
私がこれを読んだのはたしか大学生(だったかな?)くらいの事でした。

江戸川乱歩傑作選 (新潮文庫)

江戸川乱歩傑作選 (新潮文庫)

少し話が飛びますが、元々私は椎名林檎さんがすごく好きで、中でも3rdアルバムの「加爾基 精液 栗ノ花」がとても好きです。
今でも私の生涯におけるベストアルバムです。

加爾基 精液 栗ノ花

加爾基 精液 栗ノ花

このアルバムは、大正・昭和時代の歌謡曲にナンセンス美学の要素を取り入れて、今風のサウンドで鳴らした曲が収録されています。
そういう雰囲気に魅了されていた私と、江戸川乱歩さんの出会いはとても衝撃的でした。

江戸川乱歩傑作集」を読みながら、BGMに「加爾基 精液 栗ノ花」を。
この世界観に完全に酔ってしまった私は、気が付いたら時には京極夏彦さんや夢野久作さん(ドグラ・マグラは読了できていませんが…)を読み漁っていました。

江戸川乱歩さんの作品は、傑作集以外まだ触れていません。
(というのも、青空文庫に追加されてから読もうかなと思っていまして…笑)
これからまた、先生の作品に多く触れていきたいと思います。
そして「13階段」という作品に私を巡り合わせて頂いた事を、本当に本当に感謝致します。

お別れに「茎(STEM)~大名遊ビ編~」を。
(「加爾基 精液 栗ノ花」にはアルバムVerとして日本語Verが収録されています)
椎名林檎 - 茎(STEM)~大名遊ビ編~ - YouTube
不思議な魅力ですよね。
この曲も好きですが、私のイチオシは「迷彩」と「葬列」です。
ぜひ聞いてみてくださいませ。